ふと周りを見渡すと、自分が濃縮された嫌悪感で精製された飽和状態の空気の中に立たされていることに、男は気付いた。
男はただ、皮肉めいた笑みを浮かべた。
世の中は今、こうした自分のような者ばかりで溢れている。人生を愉しむことを忘れ、絶望や悲しみさえもさも無かったことのように振る舞い、そんな状況を打破しようと世に反抗するわけでもなく、ただ蠢くだけの者達……
街はまるでそんな時代を逆行している。こんな自分を当たり前の存在と思えないのか、思いたくないのか。それとも、外で起こっていることを知らないのか。
男には、そんな【かれら】が侮様に見えたのだ。
【かれら】を一通り見渡すと、男はまた、ずるずると歩き始めた。男が向かおうとしている方向にある人の垣根が徐々に割れていき、彼が歩く道を造っていく。
【エルドラド】……
男はこの街の正体を未だ知らない……