キンはいとおしそうにその狐の頭を撫でてやると、
「お疲れさまー。もう帰っていいよ」
と言って、銀色のスティックを振り上げた。
裕一はハッとしてその光景を見ていた。キンがスティックで狐を叩こうとするように見えたからだ。
しかし金色狐は、振り下ろされたスティックに触れた瞬間、パッ、と消えた。瞬きする暇もなかった。ただ、さっきまでいたはずのものが、忽然と姿を消していたのだ。
「なっ…!?」
驚く裕一をよそに、ふぅー終わった終わった、とキンはマイペースに伸びをしている。ルリは何か言いたそうな顔をしていたが、キンの顔色をうかがっているようで、結局何も言わなかった。
裕一は慎重になった。得体の知れない化け物はこれで全部消えたが、得体の知れない「者」は、まだここに二人残っているのだ。
「……それで?」
「ん?」
裕一の警戒した声色に気づいて、キンは裕一を振り返った。裕一はゆっくりと、一歩、二歩と後ずさった。
「お前らは一体、何者なんだ?」
キンは闇の中でそっと笑む。
「……そんな怖い顔しないでよ。ボク達はただの――」
「想像の看守、よ」
ルリが言葉を引き継いで言った。
裕一はいぶかしげに眉を寄せる。
「想像の看守……?」
「そう。想像の看守。ボク達はこの世界じゃない、別の世界の人間なんだ。ただ、二つの世界は密接に関わってはいるけどね」
裕一は黙って聞いていた。にわかには信じられなかったが、キン達が異常な存在である、ということについては、キンの説明にも納得がいったからだ。
キンは話を続ける。
「ボク達の世界には囚人を閉じ込めるための牢がたくさんある。そしてその『囚人』というのは……」
キンは人差し指でトン、と裕一の額を突いた。
「ここで作り出された、『想像』達だ」
「想、像……?」
裕一が額を押さえて呟くと、今度はルリが頷いた。
「そう、想像よ。私達は、あなた達のようなこの世界の人間が作り出した想像を管理し、牢に閉じ込め、外界に出ていかないようにするのが仕事なの。だから、想像の看守」
裕一はようやく状況がつかめてきた気がした。初めてキンに会ったあの日。キンは自分がこの美術館の担当だと言っていた。つまり、ここで現れたさっきの恐ろしい化け物が、逃げ出した囚人であり想像で、キンはそれを捕まえるのが仕事だということか。