先の言葉を促すようにキリンを見ても、彼は何も言ってくれない。
「…ごめんなさい。一人で逝く勇気がないなら、自殺する資格なんてないのにね。自分でも解らないの。なんで…いて欲しいのか」
そうよ。
そもそも、孤独を知ったから死のうと思った。
今も孤独に違いはない。でも、キリンが去るのを見るのは…耐えられないほど痛い気がする。
「ここまで付き合ったなら、最後まで…そういうことでしょ」
吐き捨てるように言うキリン。苛立ってる?
何で?
本当にこの人、読めない
「嫌なら付き合わなくたって…」
瞬間、頬に痛みが走った…叩かれた事に気付いたのは、少し後。
呆然と見返す私に、キリンは燃えるような目で凝視していた。
優しさなんてこれっぽっちもない。
「見えっ張り!意気地無し!偽善者!いつまでそうやって…解らないフリし続けるつもりなんだ?君は…」
時間が止まったように立ち尽くす私の腕を引っ張って、キリンは地面の見えるギリギリの所まで私を押しやった。
そして、今は僅かに穏やかさの戻った目を私に向けた。
痛いくらい力のこもった手の間接が白く浮いている。
「バイバイ」
キリンは軽く、触れるか触れないかの力で、何もない空間に私を押し出した。
落ちる刹那、彼は私に囁いた。
私は後ろ向きに落ちて行った…視界から消えていくキリンを見たのが、最後だった。
どうしてそんなこというの…?
その疑問が消えたのは、私の意識が消えたから。
…男の子が笑ってる…
あれは……キリン…?
でも笑ってるのに、悲しい目をしてる…
学校…?
屋上…キリン…
待って…待って!
キリン、待って!
ダメ、フェンスを越えてしまう…!
飛ばないで?
キリンの揃えた両足が、コンクリートの縁から離れた瞬間、私は乱暴に揺り動かされていたことに気付いた。
慌てた担任の顔が飛び込んでくる。
私は跳び起きた。
そして、担任がギョッとするほど強く、その肩を揺すった。
「先生!…キリンを知らないですか?飛び降りて……そこ…から」
心底、薄気味悪いものでも見るように、邪険に私を振り払った。
「勝手に抜け出して、こんなところで居眠りして…言うに事欠いて何を今更…」
「知ってるんですか?」
私は、教師の話す内容を夢のなかの出来事のように聞いていた…。