冷たい目だけど、暖かい銀色の瞳だった。
雲のようにふわふわの毛並みは、針金のように真っすぐで美しかった。
長い尾は自らの寿命を語るような、すらりとしたものである。
彼は目を細めて僕を見ていた。
彼はきっと僕の美しいコバルトブルーの翼に…見とれていたんだろう。
静かで、水面にはまるい月が浮いていた。
木の枝で寝ていた僕に、彼は見上げてこう切り出した。
「鳥さん、月が、綺麗だぞう」
狼はへらへらしていた。
僕はうっすら目を開けながら彼に応答する。
「今夜は満月ですね。」
「俺の毛並みが映えるなぁ」
狼は瞳以上に白く透き通った身体をどすんと横たわらせて呟く。
「鳥さんはどんな夢をみるのかなぁ。俺は最近、仲間とはぐれて毎日寝られなくて、涙が止まらなくて、寂しい現実ばかりさ。……良い夢でも、見れたらなぁ」
僕は黒いクチバシを開けて、新鮮な酸素を吸い込んだ。
「月にお願いでもしたらどうですか。満月には不思議な力が有ります。」
風が流れて水の匂いを感じた。ちょっと湿っぽい、木々が揺れていた。
狼は目を満月にした。
そうして一つあくびをした。
「鳥さん、女神さんはこんな俺でも話を聞いてくれるのかなぁ」
ちょっとうつむき加減に申し訳なさそうな鳴き方をした。
仕方ないので翼を広げて、彼の傍に降りた。
固くてチクチクした芝生だった。
僕の美しい翼を見た彼は、黒い鼻を動かした。
「元気出して下さい」
ビーズのような濡れた瞳で彼を促した………
そのあとは覚えていない。
気付いたら、彼も僕も紅い身体だった。
「月夜にいい飯が食えて、本望だなぁ。満月ってすげぇな」
彼の声が、へらへらしていた。
うすれゆく記憶の中で、彼の白い毛並みに僕の羽根が付いていた。
コバルトブルーの、美しい……
うかつだった。
その日は、月が出ていた。