キリンは、確かに私の学校の生徒だった。
だけど、それは5年も前の事で…。
理由なく自殺したと思われているらしい。
遺書には
「僕の家の屋上で死ぬつもりだったけど、やっぱりここにした。
僕は僕の大切な所を汚す訳にはいかないから」
とだけ書いてあった。
私はここまでを聞き出すのに、一週間かけていた…キリン、というのが彼の本当の名前だと知ったのはもっと早かったが。
キリン…麒麟は、私に伝えたかったのだ。
私のイジメはまだ続いていたが、私にとってそれは殆ど煩わしいくらいの位置にあった。
私は確かに誰かにとっての1番じゃない。
けれど、そのことに…孤独に気付いたことは、むしろ悪くない事だ。
それに…。
私はあの時ほど、自分が一人じゃない気がする。
私は放課後、隠されないよう確保していたローファーを取り出し、上履きを代わりに鞄にしまう。…イジメは欝陶しいが、こっちにだって知恵がないわけじゃない。
それから、ゆっくりと、あの日麒麟と歩いた道を行く。
それが幻だとは誰にも言わせない。
そして、麒麟にとっての「大切な場所」を見上げた。遺書にあった場所。
キリン、聞こえる?
私は胸に手を置いた。
キリンはあの時、私の手を取った。
私が1番一人だった時、彼は来てくれた…。
「僕と君は似ている」
キリンはそう言った。
あなたも孤独に気付いてしまったんでしょ…?
理由ない死なんてない。みんな自分の空っぽと戦ってる…そうよね?
私はもう屋上には行かない。
あのことが幻だったのか…そうじゃないのかなんて意味はない。
私は死なずにここにいて…ここにいて、誰かの1番になれる可能性に賭けている。
孤独なら、そこから抜け出せばいい。
青空が変わらずそこにあるなら…いつかは…。
最後、引き寄せられて囁かれた言葉。
私は、覚えてる。
ずっと、忘れないよ。
僕がいるよ
私はもう一人じゃない。キリンが私に、見えっ張りで自分勝手な私の心に踏み込んでくれたから。
だから。
私もキリンに伝えにきたよ。
キリン。
ありがとう。
あなたも一人じゃない。
どんな人だって、一人じゃないよ。
私は、歩き始めた。
キリンの声が、聞こえた気がした。
Fin