「君かわいいね」
渋谷の道玄坂。サングラスに野球帽の男に声を掛けられた。無視しようとしたら、男は名刺を差し出した。
フォトグラファー 飯田毅夫。
20代にしか見えない。
「モデルを探していて。君顔いいし、体つきもいいからピッタリなんだよね。どう?アルバイトしてみない」
飯田の巧みなお世辞にいい気になってしまった。すぐに終わるからという二言目に頷いていた。仕事内容も聞かない内に。いかがわしいに決まっている。しかし、見たこともない世界を垣間見られる好奇心が勝った。
歩いて15分ほどの住宅街にあるマンションの一室。すでに照明がたかれ、カメラが三脚につけられていた。言われるままに服を脱ぎ、ロープで縛られ、天井から吊るされた。
驚くほど抵抗感がなかった。フラッシュが光り、飯田が真剣な面持ちでシャッターを切る。
30分にも満たずに終わった。呆気なかった。
飯田は一万円くれた。体を売るのはこういう感覚なんだろうか。後戻りできない一歩を踏んでしまった感じ。
驚いたことに、飯田と次の約束をして別れた。
マンションを出てから、今日の写真がどのように使われるのか知らないことに気づいた。
飯田って本名なんだろうか。