「こいつも、ここの担当なのか?」
ルリを目で示すと、キンは深く頷いた。
「ボク達はペアで仕事をする。ルリはホントは別の場所で、別のパートナーと組んでたんだけど……。そのパートナーが、いなくなっちゃったから」
「ふぅーん……」
ルリもキンも、なんだか意味深な様子だった。二人の頭の中に、共通のある人物の姿が浮かんでいるのが、手にとるようにわかる。しかし裕一はあえて突っ込まなかった。これ以上話を広げると、頭がどうにかなってしまいそうだったのだ。
話を逸らそうと、裕一は別の疑問をふっかけた。
「じゃあ、さっきの狐は?あれはどういうモノなんだ?囚人…を食ってたけど。捕まえるんじゃなしに」
「ああ、あれは――」
キン
は頭を軽く振ってから説明に戻った。
「あの狐は、囚人とはまったく関係ない。アレはボクの想像だよ」
「お前の……?」
「うん。ボク達想像の看守は、一人一本ずつ、銀のスティックを持ってる」
「このスティックは、持ち主の想像を具現化する仕組みになってるんだ。さっきの狐みたいな、想像の看守が作り出した想像を『捕食者』と言って……」
「囚人を食べてくれるの。食べられた囚人は一度姿を崩すけど、狐のお腹の中から向こうの世界に送られて、元いた牢に閉じこめられるシステムになってるのよ。もちろん元の形に戻って」
「へぇ……」
何だかもう驚く気も失せてしまった。裕一は不意に、体の奥底に深い疲れがよどんでいるのに気づいた。
化け物だの想像の看守だの、今日は本当に訳のわからないことだらけだ。普段使わない体力や感情を使い切ってしまい、裕一はすぐにでもベッドに倒れ込みたい気分だった。
そんな裕一の様子を見かねてか、ルリが小さな声で言った。
「……今日はもう帰るといいわ」
「え?」
「あなた、疲れてるみたい」
「……」
「そうだね。じゃあまた明日ね、ユーイチ」
「ああ…………ん?」
歩きかけた裕一は、学校の下校風景にピッタリの挨拶をされて、思わず言ってしまってから、はたと気づいた。明日……?まるで裕一がこれからもキン達と関わり続けることを予感させるような、そんな言葉――。
「お……」
い、と言いかけて、裕一は固まった。
振り返った先には、キンもルリもいなかったからだ。
少し肌寒い闇の中、古びた美術館の中心に、裕一は一人茫然と突っ立っていた。