憂夜は新館に行った
鏡の前の壁をよく見た
「また……何か書いてある…」
その字を指でなぞりながら読んだ
『鏡の中は夢の中
誰かがあなたを待っている
さぁ長い夢が始まる
後ろを見てごらん…』
嫌な予感が憂夜の胸を過ぎった
憂夜は恐る恐る鏡のある後ろを振り返った
驚くことに鏡は真っ暗に染まっている
「な……何だよ…これ……」
鏡の向こうで黒い自分らしき人物が手招きをしている
〔おいで…………怖くなんかない……………自分にしかできない…………〕
「…!!やだ……っ誰か……………助け…」
逃げようと思ったやさきに
鏡の中から黒い大きな手が現れ憂夜を包んだ
「…………!!」
手の中は真っ暗で水の中にいるみたいだ………
もがく力もなく
どんどん沈んでいく
『………眠たい…』
『おめでとうございます
立派な男の子ですよ』
「!!??ここは!?」
憂夜はあきらかに学校じゃない所に立っていた
目の前で赤ちゃんを抱く女性と横で喜ぶ男性、
医師らが立っている
「どこかで見たことがある…」
『あなた…名前何にしましょうか…』
女性がつぶやいた
「この声!!母さん!?」
『男の子だからな……一輝なんてどうだ?』
『いいわね…』
憂夜は驚いた
自分の名前は憂夜なのに……
『長野 一輝………いいわね…』
「ちがう……ちがうよ!!母さん!!俺は憂夜だよ!!」
いくら憂夜が叫んでも
母には聞こえていない……
〔書け……〕
「!!?」
闇の中で自分を呼んだ声が聞こえた
〔お前は鏡に入った……
出るには鏡の間違いを訂正していかなければならない……
そう……逆のことを今の現実にかえなければならない…〕
「わけわかんねぇよ……」
〔訂正しないとお前は憂夜じゃなくなる………
お前はあの一輝となり、
今のお前憂夜は消えるだけだ…〕
憂夜の前に大きな筆が現れた
憂夜は黙って目の前の光景に
『憂夜』と書いた