殺す。
そう言った自分の声が、他人の物の様に感じられる。
自分の弱さと卑しから来る吐き気を抑えながら、姉の顔をみる。
私が視線をあげると、蒼白だった顔に赤みが戻った。
『嘘ね。顔に書いてある』
――哀しい。
『そう思いたいなら、そう思ってもいいんじゃないかしら。もっとも………』
『この娘がどうなるかは――知らないけれど。』
――――今も、昔も、一番近くにはいたけれど――
この氷の声は、誰の悲鳴……?
私達は
―――近い、というだけで、交わったことなど一度もない。
部族としてだけでなく、あなたは確かに特別だった。大好きな、今も優しく強い姉。
吐息が聞こえた。
水の中での溜息は、とても大きくなる。
『確かにあなたの口からそんな言葉が出て来るのが信じられないっていうのもあるけれど――』
『あなたは、優しい娘よ』
『――!!』
`目的の為に、自分を偽るなんて馬鹿げてるわ!'
今も憧れる、強い言葉。
やっぱり私には
選ぶことなんかできない
半ば突き飛ばすようにして、娘を解放する。
口から少量の泡がでるのが垣間見えた。
憎いはずの人間。
だけれど、その人間の命が助かったのを目の当たりにして、ほっとしている自分が、確かにいる。
それは
憎しみが、私のものでないから
私の知っている彼女は、蔑まれながらも、強く優しい。
これは
誰の悲鳴?
無限の海に響き渡る。
風のように
強く
弱く
限りなく、冷たく。