普段は殆んど行く事の無い辺鄙な地域に仕事に行った帰り道。缶コーヒーでも飲もうと一台の自販機の前に車を止めた。
自販機は?小屋?と言っては失礼だが、お世辞にも?家屋?とは言えない外観の建物の脇にポツンとあった。
車から降りるとその建物の中から良い匂いが漂っていた。
昼に少し早い時間だったので「ふーん。こんな小屋みたいな所にも人が住んでるんだ」と、思うともなく思い、缶コーヒーを買って一度は車に戻ったが、どうにも気になった。
その建物から漂う匂いが、どうも一般家庭の昼食の支度の匂いだとは思えなかったのだ。
私は再び車から降りると、道路に面した入り口の方に行ってみた。
入り口の引き戸はガラスサッシで、中の様子を伺う事が出来た。
こそっと中を覗いて見ると、厨房の様なものがあって、中で白衣を着た老人の男女がなにやら立ち働いている。
どうやら食堂の様だと思ったが、看板も暖簾も無い。
「何かの食品加工業者かな?」とも思いながら視線を上に向けると、入り口の上部にボロ布の様なものがぶら下がっている。
ボロ布はハンカチ大のものが四枚だが向かって左からの二枚は千切れて原形を留めてはいなかった。
そして私は残された二枚のボロ布に辛うじて残された「食堂」の文字を解読したのだ!
やはり此処は小屋では無かった。
れっきとした?食堂?だったのだ!
続く。