宙邦同士は激しく競争しながらも、その交流は活発だった。
宙際連合は衰退の一途を辿ったが、人的資源中心経済その物は順調に拡大し、人類宇宙文明は未曾有の繁栄を極めた。
だが、それが破局に繋がった。
これまでに無い規模での人間の移動が、新たなる疫病を引き起こす原因となったのだ。
俗にスーパーウイルスと呼ばれる一連の感染症が初めて猛威を振るったのは銀河元号一五星紀に入ってからだった。
それまで一部の風土病に過ぎなかったウイルス・或いは本来なら出会う筈も無いウイルス同士が、宙邦の拡大と繁栄によって、急激に毒性を増し―信じられない程凶悪なウイルスに生まれ変わったのだ!
その中でも、四大流感と称されて人類に恐れられたのが秒死病・断愛病・香木病・風船病だった。
秒死病は皮肉な事に、地球時代に絶滅したと思われていたペスト菌その物が母体となっていた。
長年の医療の進歩が、人類から抗体とワクチンを忘れさせて久しく、新たなウイルスと合体したそれの前に感染した者はそれこそ数十秒以内で死に至った。
断愛病は精子その物をウイルス原にし、性交を契機にカップルのどちらをも十日以内に脳まで冒す深刻な感染に晒してしまう恐ろしいウイルスで、事実この性病が広まってから人類は直接性交及び自然出産をしばらくの間激しく忌避する様になった。
香木病は、感染したリンパ節から魅惑的な香りを発する事からそう名付けられた。
だがその症状は深刻で、発症から一週間から三ヶ月以内に全身の骨及び臓器が溶けて無くなると言う恐るべき病だったのだ。
風船病に至っては感染から一ヶ月以内に体中がそれこそ風船みたいに膨らんで最後は破裂すると言うから戦慄する他ない。
主に臓器や筋繊維に感染したウイルスが猛烈な勢いで炭酸ガスを発し、それが体中に充満するのが原因だった。
この四大流感に当時の人類の七割が罹患し、凡そ一八0億人が命を奪われたのだ。
特に、治療法やワクチンの開発が間に合わない初期の二0年間では、感染者の一年以内の死亡率は九四%と言う、絶望的な状況だった。
最も大きな被害に苦しんだのは、これも皮肉な事に、経済拡大を進めた宙邦群だった。
疫病は人口密集地や商業が盛んな場所を必ず狙う。
そう言う意味ではその両方を兼ねるべく競争していた宙邦がやられたのは、当然ではあった。