彼女から手紙が来たのは、僕がデビューして間もない、もうかれこれ8年も前になるだろうか。
グループのデビューシングルは泣かず飛ばす。さっぱり売れなかった。
だから当然「あなたのファンより」なんて手紙が来たことに誰もが驚いた。
明日には消えるかも知れないグループなのに。
コンサートの楽屋には花やプレゼントが届き、手紙は300通を数えた。
その甲斐あってかどうかわからないが、グループはいまに至るまで生き延びて、ベスト盤を出すにまで成長した。いまが旬だ。
だが先週、週刊誌に「お泊まり愛」とすっぱ抜かれてから、顔も名前も知らない「あなたのファン」の口調が変わった。
僕を詰り、憎しみに彩られた手紙が届くようになった。花の代わりに、画ビョウが刺さった写真が届くようになった。
そして今日、記念すべき東京ドームコンサート。
彼女はいつもと変わらず見に来るという。包丁を持って・・・。
出番は容赦なくやってくる。暗闇の向こうから何万人という観客の声援が聞こえてくる。
スポットライトの向こう側で彼女はじっと息を潜めて待ち構えているはずだ。
それがわかっていても、僕はステージに立つしかない・・・。