結局、亜人の女も介抱する事になった。
通常、亜人は人の目には絶対に触れないような森や河等に一族全員で住む。
一体何の企みがあってここにいるのか聞く必要があるだろう。
†
切り立つ崖の上
慟哭が遠く響く
雨音はしてしとと
風はすぅ、と
頼りなく続く
切り立つ崖の上
木造の十字架は
色とりどりの花に埋もれ
虚に
閑とした
独特の空間をつくる
そこに佇む女性は
指が白くなるほどに
きつく きつく
自分を抱きしめて
今は亡いものを
想う
†
そして、同じ夢を見て目が覚める
「…ぁ、………の妹……った………が………と」
誰かが怒気と冷気を含んだ声で話すのが聞こえる。
あんなに冷たかった体が暖かい。
―――助かった……
眠ったままの振りをしながら、辺りの様子と自分の置かれている状況を窺う。
河辺にいたところを、誰かに引きずり込まれた所までは覚えている。
その時にすぐに首を絞められるようなかたちになって、意識を失った。
相手は確か亜人だったはずだ。でなければあんな鮮やかな色の髪の毛は有り得ない。
戦ったのだろうか。
やはり、生まれを隠して生粋の人間と一緒にいる身として、他人事のようには思えない。
私も、いつかはそうなるのだろうか。
誰にも気付かれないように、一瞬だけ薄目で周囲の様子を探る。
直ぐに長い黒髪が目に入った
どうやらジンに問い詰められて洗いざらい吐かされている感じだ。
黒髪の女性は、フィレーネと名乗り、私を引きずりこんだ亜人の女性と同族で、訳あって一族の中にいられなくなり地上に出ようとしたところだった、というような内容を話している。
「あんな風に関係の無い人を巻き込むなんて……」
きつく唇を噛み締めているが、演技なんていくらでもできる。
妖需の髪の毛がまだ濡れているのに対して旅の仲間達の服や髪が渇いていることから、彼女は妖需を自らの意志で助けてくれた事がわかるが――
はたして信用していいのだろうか。
その日の深夜のこと。
一緒にいたはずのフィレーネが、いつの間にか寝具からいなくなっていた。