想像の看守 ?―?

ユウ  2008-03-23投稿
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(…………うぜぇ)
軽く一睨みしてやったら、恵梨奈は気づいて小さく手を振ってきた。裕一は無視した。

それからはわりと普通の一日だった。裕一は適当に授業をやり過ごしながら、ずっとキン達のことを考えていた。
彼らの存在の事を。想像の看守……。にわかには信じられない話のはずなのに、裕一はそれほど“ありえない”と強く思うことができなかった。もともと受け身的な性格のせいかもしれない。
(別世界、とか言ってたな……。)
窓際の席からは、秋独特の透明な青空が見える。高い高い、空。――あいつらの世界はどこにあるんだろう?裕一は頬杖をついて考えていた。あの空の向こうか、いや、牢が並ぶ世界と言っていたから、ひょっとしたら薄暗い地下のような世界なのかもしれない。
(そしてそこが、ルリの世界……。)
裕一はいつの間にか、ルリの事を考えていた。
彼女と初めて出逢った昨日の夜。あの瞬間感じた、「懐かしい」というおかしな感情。
それこそが“ありえない”ものだった。
(俺達は初対面だぞ?何で懐かしがる?おかしいだろ……)
瑠璃色の綺麗な瞳。石のように滑らかで美しい白い顔。あの、無表情のように見えて、本当は哀しみを押し包んだ、切なげな顔……。そして裕一は、そんな彼女を見つめた瞬間、懐かしいと同時に、もう一つ別の感情も抱いたのだ。
(…………だから、ありえないって……!)
顔が熱くなって、裕一はまた机に伏せた。ありえない、ありえない、ありえない……!!そんな、この俺が、今までまったくの無感動無関心で生きてきたはずの、この俺が……?

裕一はあの時、ルリを「愛しい」と感じたのだった……。


放課後になり、裕一は足早に学校を出た。途中職員室に立ち寄ったが、担任教師がいくら切々と裕一の成績について語っても、お経を聞いているかのように、まったく耳に入ってこなかった。
とにかく、美術館に行かなければ……。理由は考えたくはないが、それでも自分の中では明確にわかっていた。――ルリに逢いたい。昨日は化け物だの何だののせいで、ろくに話もできなかった。それに、助けてもらった礼もまだしていない……。
置き勉してきたので、鞄はずいぶん軽かった。裕一は柄にもなく、走った。早く……早く……!何が自分を焦らせるのかわからない。ただ、一刻も早く、ルリに逢いたかった。




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