「咲島ジュリアの無力化に成功した。」
無線機から聞こえて来たのは低い男の声だった。
「ご苦労様。
解ってると思うけど時間は後三時間しか無いからね。」
そう答えたのは天使の異常なまでに整った顔立ちの青年。
しかし天使であるにも関わらず、目の色は紅く、色素が薄い筈の髪の色も黒だ。
「あぁ…それまでに仕事は片付ける。
任せとけ。」
男はそう言って電話を切った。
「どうしたの?」
そう天使に質問したのは悪魔の女。
長い艶のある黒髪が腰まで伸び、更に赤い瞳と白い肌が妖艶な美しさを醸し出していた。
「ガルバンドが執行部に接触したんだって。」
「ガルバンドってあのモヒカン頭の怖そうな人だったよね?」
「うん…確かにあれは怖いな…
それより…どうしようか…」
天使は目の前の光景を見てため息を吐いた。
二人がいるのは多くの巨大な柱状のクリスタルに覆われた空間。
そしてその一番奥にあり、二人の目の前にあるモノは他の水晶よりも更に大きいクリスタル。
「ねえネロ…この人本当に生きてるの?
魔力も拍動も感じないよぉ?」
「なんていうか…生きてるんだけど死んでる…みたいな感じかな…」
「何ソレ?意味わかんないよ。」
「まぁとりあえず仮死状態って感じかな。
それと自分の母親に向かってその人呼ばわりはないでしょ…」
「だって…私覚えて無いんだもん…
母上の事も…
ネロの事も…
覚えてるのは…アイツにっ…殺された時のっ…」
「もう止めろ…」
そう言ってネロは悪魔を抱き締めた。
「直ぐに思い出す必要は無い…
それにアイツはもうすぐ…
あと一年待てば奴は殺せる…
今は我慢だ。」
すすり泣く悪魔をネロは愛おしいそうに抱きしめ、そして慰めた。
まるで恋人同士の様に。
「ごめんね…あに…いや…ネロ…
心配かけちゃって…」
「俺がメルディーナを心配するのは当たり前だ…」
二人はそう言って目をつぶって顔を近づけた。
「一緒にアイツを殺そう。
そして再び…」
二人のやり取りを見ていたのは、クリスタルの中で眠る白い翼の悪魔だけだった。