水泡が動く音に混じって、甲高い金属を引っ掻くような音が響く。
『待って………』
後ろから、聞き慣れた【声】が追ってくるのがわかる。
止まるわけには、いかない。少しでも、遠くへ。
少しでも、あなたを、留めておく。
『待ちなさい……っ!』
頭に直接響くような声に、焦りが滲んだ。恐らく、少女に気付いたのだろう。
海の色が深さを増す。
どれほど深く潜ったのだろう。
人間のこの娘にどこまで耐えられるのだろう。
水を飲まないように、口と鼻を覆ってやってはいるが、それもどこまでもつだろう。
人間は、脆い。
心も、体も。
異端を退けて、臭い物に蓋をして――
自分の周りだけが助かって、あぁ、今日も無事だったって
きっと、そう思うんだ。
認めない。私達が何をしたというの。
私達に何が出来るというの……
そう認めない。そうすれば、護ることができる。そのためなら――――
決して厭わない。
『待って!待ちなさい!!』
呼び声はどんどん大きくなる。
だから私は、最後だと分かっていながら、応える。
私達の道は、離れすぎてしまった。
『お願い……帰って来てよ………』
『姉様………っ』
もう、あなたには届かない。
腕が掴まれる。
幼い頃から一緒に育ってきた、見慣れた義理の姉の顔。あなたと私が違うと気付いたのは、いつだったろう。
鮮やかだった空色の髪は、歳を追う毎に漆の色に近付いて。
ついには、私達と同じ姿を保つ為には、薬が必要になった。
そのあなたが、私を見て、やっぱり少しだけ迷った顔をする。
だけれど、それも一瞬。
悲しげに、淋しげに、瞳を固く閉じて首を振った。
もう光の加減で、昔の碧に見えたりするのも『懐かしむ必要さえない記憶』に変わる。
その為に
諦めるわけにはいかない。
私にもう迷う時間はない。
金髪の少女の細い首に、ゆっくりと爪を立てる。
『帰って来てくれないなら、この娘――』
お願い お願いだから
『殺すわ』
誰か、助けて