そこは無秩序と混沌の支配する場所だった。
全ての法規も統制もそこでは無視されていた。
打ちっぱなしのコンクリートは無惨に荒れ果て、いたる所がひびや落書きに覆われている。
構内や廊下にはゴミやスチール缶が散乱し、一枚とて割られていないガラス窓は見当たらなかった―\r
私立2T学園―ここが都内最悪の不良校だ。
まだ正午を過ぎた辺りだったが、分厚い曇空が太陽を遮り、一帯は薄暗かったが、例え晴天でもその校舎の荒廃振りをぬぐい去る事は出来なかったであろう。
『おいレイ!聞いてんのかよ!?』
校舎四階の生徒会長室は、外観とはうって変わってまるで王宮か、さもなくばホストクラブだった。
事実三つの教室をぶち抜いた大改装によって、そこは造られていたのだ。
だが、根岸タクトの不機嫌はそんなきらびやかな光景に接しても一向に収まらなかった。
原因は彼の上司―生徒会長だ。
『お前も知ってるだろ!既にな、Z区の第三中学校がこちらに宣戦布告した!!』
タクトはヒステリックな男だ。
言いながら高級ムク材の机をばんばん叩きまくっていたが、逆にそれが彼の激情に火を付けたみたいで、
『あの第三中学校―リーダーは梅城ケンヤだ!!そいつが100人以上を率いて俺達を討伐しに来るんだ―って、聞いてんのか!!おい!!!』
遂に腰から抜き出した拳銃を取り出して―\r
パァン
天井に向けていきなり撃った!
弾丸は金箔張りの天井にぶさ下がるシャンデリアに命中し―\r
ガシャ-ン!
《本物》のペルシア絨毯に立つタクトの真後にそれは落下し、派手な音を立てて砕け散る。
だが―\r
『あ〜あ〜あ、タクトちゃ〜ん、な〜に焦っちゃってんの〜?』
どう考えても《玉座》としか表現しようがない絢爛豪華な肘かけ椅子に座る生徒会長に、動じる様子はなかった。
『高いんだからさ〜この机もシャンデリアも』
悠然と嘆きながら、《彼》は卓上のワイングラスに手を伸ばした。
左右を美女に囲まれながら―\r
『知ってるさ。梅城君だろ?随分元気な会長さんだそうじゃないか?』
しかし、タクトはその卓を蹴りまくりながら―\r
『元気なんて物じゃねえ!!そいつが来るって事は俺達を皆殺しにするつもりに決まってるだろうが!!!』