会いたい?

ばぁぐん  2006-04-29投稿
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『やだぁ拓也ドコ触ってんのよォ』『良いだろォ?まで待ち切れねぇよ』ガタンゴトン…電車で恋人がイチャつくなか、西野光(にしのひかる)は目を閉じて、MDプレイヤーを握りしめている。『大切にするよ 君のすべてを愛しているから…♪』リズムがとても心地良い。光は目を開け、再生ボタンを押す。隣りの人がipodを使う中、光は今だMDを使っている。それは、あの人が言っていたから。『なんかさぁMDってあのカシャッてゆぅ音が良いんだょな』 今だよみがえる、あの人の声、顔、コトバ。あんなに人を愛したのはきっと、もうないだろう。 10年前― 「お父さん…私…絵を書いたの…」伸二はマグカップを持ち立ち上がる。「悪いけど子供に付き合ってるヒマはないんだ」マグカップの中のコーヒーをすすりながらキッチンへ向かった。「…ごめんなさい…」 光の父は家庭をかえりみない冷酷な人だった。母、明子は夫にいつもビクビクしていて、情けない姿を光に見せるだけだった。「邪魔なんだけど」「…!」兄の純は、父に似て妹に優しい言葉をかける事はなかった。そのかわりにかける言葉は…「勉強の邪魔だ」「うるさいな出て行けよ」「あんまり俺の前に現れないでくれる」 ひどく冷えた家庭だった。そんな家庭に生まれた光は『愛』を感じる事はなかった。 「ずっと本ばっか読んでて楽しい?」 その言葉が光を変えた。

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