私は、喉の渇きを潤そうと卓上の「水」と書かれたポットに手を伸ばした。ポットの脇には盆の上にコップが整然と並べられていた。
十個程のコップは全て形も大きさが違っていて、此処にも店主の気配りが見て取れる。
小洒落た飲み屋で「お好きな盃をお選び下さい」と客に好みの盃を選ばせる店があるが、あれと同じサービスであろう。
店主のもてなしの心に、私は改めて敬意を表し、一つのコップを吟味に吟味を重ねて選択し、ポットから水をジョボジョボと注ぐと、押し戴く様に渇いた喉に流し込んだ。
ややカルキ臭が残るその水は明らかに水道水であったが、温度調整が絶妙だった。やや温めに設定された水は渇いた喉に刺々しさを与えずに喉を滑り落ち、優しい潤いを与えながら胃の腑に到達する。
加えて僅かなカルキ臭のキックバックが心地良い。 水一杯に対してもこのこだわりである。
?みすぼらしい建物?
?千切れた暖簾?
?一つきりのテーブル席??椅子の無いカウンター??チグハグのカーペット??弾む床?
?一枚しか無いメニュー??中華そば大盛り四百五十円?
?不揃いのコップ?
?生温く、カルキ臭の残る水?‥‥
期待は更に高まった‥