約10年前
暗い病室に家族が集まっている。
彼が来たときには
母親はすでに目の前のベットから、天国へと旅立った後だった。
涙が止まらない。止められなかったのだ。
ただ、悲しくて
ただ、悲しくて
溢れる気持ちを、止められなかったのだ。彼の母は一週間も意識がなかったのだ。本当に、眠っているように見えた。
なぜ、私の母でなくてはならないのだ。
なぜ、死ななくてはいけなかったのだ。
後に彼は知った。母親は乳ガンだったのだ。
なんて事はない。日本人の最大の死亡理由が当てはまっただけ。
しかし、幼い彼はそんな事は知らない。
ただ ただ、泣き続けた
彼の母は最期の一週間、意識がなかった。
「きっと良くなる」という医者の言葉を無邪気に信じ、
彼は母親の目覚めを待っていた。
ついに、その時は来なかったのだが。
別れも告げられずに
母親は去って行った
当時、彼は9歳
寒くて暗い病室での出来事だった。