少女はひたすらに階段を上った。スリッパが脱げそうになり、上手く階段が上れない。じれったくなった少女は両手にスリッパを持って走った。
「はぁ…」
二階は静かだった。トランペットの音色はこの上、三階から聞こえてくる。
この上に…
三階へと続く階段をかけ上がる。階下からは階段をのぼる足音と「ちょっと待ちなさい!」という教師の声が聞こえた。
齢14歳と言えども階段を一気に上るのはきつい。最後の5・6段のところで少女は立ち止まってしまった。
「はぁ…はぁ…」
顔を上げると前の廊下で一人の少女がトランペットを吹いていた。
きれい…
その言葉がぴったりだった。そこにトランペットがあることが当たり前のように少女とトランペットはぴったりとあっていた。
トランペットを吹くだけでこんなに綺麗でこんなにカッコいいんだ、と心底驚いた。
大きく開かれた窓。風になびく黒髪。光輝く銀色の楽器。
少女は両手にスリッパを持ったまま、トランペットを吹く少女にただただ見とれていた。