「……俺にだってわかんねぇよ。何でこんなにルリが気になるのか」
ぼそりと呟いた裕一に、キンは、ん？と反応した。
裕一の顔には、何か思い詰めているかのように、暗く影が落ちている。
キンはぽりぽりと頭をかきながら木にもたれかかった。――“あの事”を言うべきだろうか？しかし、まだ早すぎる気もした。言っても、裕一に理解できるかどうか……。
「ルリと組んでたパートナーの話、覚えてる？」
「？」
裕一は顔を上げる。キンは遠回しに話していくことにした。
「あの、いなくなったとかいう？」
「うん。よく覚えてるね。その人は、キミより少し大人の、男の人だった」
珍しくキンが慎重な話し方をしていることに、裕一は気づいた。
「彼の名前はダイダイ。想像つくと思うけど、彼は橙色の瞳を持っていた」
「ダイダイ……」
初めて聞いた名前なのに、なんだか懐かしい。これも奇妙な事だった。いや、待てよ……？確か前にも、キンが口にした気がする。そう、あれは確か――。
『ユーイチに会ったんだね。そりゃ、びっくりして動けなくなっちゃっても仕方ないや。ボクの言う通り、ダイダイにそっくりだったでしょ？』
――俺に、そっくり？
「……どうしたの、ユーイチ？」
「……なぁ、キン」
裕一は眉間にしわを刻み、一言一言ゆっくりと言った。
「前にお前、言ってたよな？その、ダイダイっていうのは……俺に似てるって……」
キンは呆気に取られた。よく覚えているものだ。これじゃあ遠回しに話した所で意味がない。キンはふと思いついた。これは、いい機会かもしれない――。キン自身が持っていた疑問を解決するのにも、裕一が答えを見つけるのにも。
「うん。そうだよ」
キンが急に鋭く目を光らせたので、裕一は驚いた。
「キミに一つ聞きたいことがある」
「な、何だよ？」
「……キミは、ダイダイじゃないの？」
裕一は息を呑んだ。
「なっ…！？」
「似ている……いや、あまりにも似すぎてる。だからボクは、ダイダイが消えて、キミが現れた時、思ったんだ。キミはダイダイなんじゃないかって。――違うのかい、『ユーイチ』？」
キンの射抜くような視線が、裕一を貫く。肌がぞわっと粟立った。――得体の知れない者が、裕一を睨んでいる。“想像の看守”という、あまりにも現実離れした存在が。
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