「料理長がいなくなったら俺ら行き倒れだな」
TKはリボンが出かけたのを見計らって起きてきた。
「TK。聞いてたのか。止めてくれよ」
サル坊は冗談で言いながらTKの朝飯の皿を出した。
「あいつは強いよ」
「歌手になれるかもってか?」
「TK、それまで面倒見てやんなよ」
「何で俺だよ」
サル坊は仕事に行くTKを黙って見送った。
夕方過ぎ、リボンは帰ってきた。
「音楽関係の知り合いあたってたんだけど、全然ダメだった」
「バンドでもやるの?」
「せめて一度だけ歌わせてくれればな…」
「なに最初からヘコんでんだか…メシくれよ〜メシ」
リボンはサル坊をひと睨みすると、とびきりの笑顔を見せキッチンへと向かった。
―TK。お前にも夢があったんだったな。
「野球選手?お前が?」
TKのピッチングを見ながら中学校のグラウンドでサル坊は今とは違う、幼い目でTKの話に反応していた。
「なれたら良いって話だよ」
こうやって学校であったことや他愛のない話を二人はしていた。
同級生だった。
ただの。
ある日。
必然的に決まっていた日だったのだろう。
TKの利き腕の肩は壊れた。
以前から調子は良くなかった。しかし、まさか…。
TKは自分の非力さ、脆さ、弱さ、不甲斐なさ、全てを呪った。
当時は彼女がいたTKも、捌け口にしたくはないと別れた。
それ以来、TKはそれまでを捨てた。
勉強などする気すら起きない。中学卒業と同時にバイトに明け暮れ、金を貯め続けた。
使い道もない。
そして、今、彼はホストクラブで働いている。
使い道もない金を、より多く稼げるところへ、稼げるところへと、行き着いたのがここだった。
「はい、シーフードパスタ。美味そうでしょ」
「ウマそう」
TKにリボンの面倒を見てくれと言ったのもそのためだった。金が有る無しで人の生き死にが決まる時代。
夢に目覚めたリボンには生きて欲しかったから。