割れたブランデーの瓶の破片を掃除しながら母親は膝を丸め座っている子供に言った。
「あんたちょっとおかしいんじゃないの!?怖くないの!?こんなに毎日、喧嘩見て!!」
子供は首も振らず瞳はただ一点を見つめ続けている。
母親は首を傾げ、父親とは別の部屋へと入って行った。
子供が中学校を卒業した日。
帰ってくると置き手紙以外、一切が部屋から無くなっていた。
「離婚しました。このマンションは来月までの家賃は払ってあります。後は好きにしてください。 母」
三行でこの子供の人生は終わりを告げた。
すぐに一番に頭に浮かんだ友人に会いに行った。
マンションで一緒に暮らしてくれる唯一の友人。
それから家賃を、生活費を、死に物狂いで二人は稼いだ。
「お互いこの名字は棄てよう」
「名前もいらねぇよ。もらったものは全部棄てよう。命以外は」
「お前はいつものあだ名で決まりじゃんか」
「お前は……外国映画みたいな…格好いい、イニシャルだな。シンプルに、K、T、二文字だ。TK」
「TKか、いいね。お前はサル坊だろ?」
「あ〜もう。慣れたよ!それで良い」
TKの働き方は少し異常だった。仕方がないことだとサル坊も分かっていた。
夢を無くした隙間を埋めるためだ。
TKは無我夢中で働き続けた。二人は一人で養えるまでになった。
やがて出入りするマンションの住人管理をサル坊が仕切った。
リボンと出会った。
あの頃の二人と同じような瞳をしていた。
三人は出会った。
だがサル坊は気付いていた。
三人で暮らしていくのはTKには負担だと。
サル坊は気付いていた。
TKがリボンを見つめる瞳に。
リボンがTKに見せる瞳に。
二人の重石になるのは、俺だ。
サル坊は、リボンが作った朝飯をいつも通り、食べた。