―いつしか忘れた、あの記憶。 短い金髪に黒い帽子をかぶった少女が、真っ暗な世界で立ちつくしている。 ―暗闇で消えた、あの歌。 少女がふと、目を開く。その瞳は、深く、青く… ―光はあるの? 少女は突然辺りをキョロキョロと見回した。全てが闇に葬られた、時の無い世界。たった一人取り残されたような感覚に、少女は恐怖を抱いたのか、黒い景色に視点を落ち着かせると、呟くようにぽつりと口を開いた。 「ユキ…?」 いつも一緒にいた、親友の名前。どこに行ってしまったのだろう…?怖い… 「俺、独りなのか…?」 少女がそう絶望したように言った時だった。辺りが、スゥ、っと明かるくなって行く。 「ユキ…」 …また、少女は呟いた。 「ん…ぅ〜ん…」少女は明かるい光に目を細め、その上に手の甲を置く。指の間から純んだ青空が見えた。「…夢か…」 ここはどうやら木の上らしく、遥か下に広い草原がある。少女はゆっくりと起き上がった。上の小枝にかけてあった自分の帽子をとり、かぶる。少女はまたぼーっと空を見た。あの暗い闇など破片も無い、川が何千にも行きかう、この町。―リバー・メイ。あの夢には、何か意味があるのだろうか、その時。 「アクセル!!」「!!?」 ―バキッ 「うわ!」 どこからか響いた少女の声と共に、少女―アクセルの乗っていた枝が不吉な音を立てた。景色が反転する。どうやら落ちたらしい。急速に落下して行くアクセルの尻が草原に激突した。 「どわ!!」 アクセルは悲鳴を上げた。ぶつけた尻がジワジワと痛んで行く。 「〜〜〜!!!」「何してるのかな〜?アクセル。」涙目で痛みに耐えるアクセルの視界に、ひょこっとセミロングの少女が顔出した。アクセルが顔を歪めながら少女をにらむ。「ユキ…」 アクセルは少女―ユキの名前を呼んだ。ツヤのあるくすんだ水色を黒いリボンが結んでいる。 「何だよユキ。」アクセルはユキに言う。ユキはアクセルをにらみ付けた。