「そうではない。私が言いたいのは味だ」
ご機嫌な笑顔で紙袋の中からクレープを取り出す。
「これほどの人だかり、見たことないぞ」
包み紙の封を開ける。すると、明るい黄色の生地が顕になった。
「・・・次から店内を覗かないでね」
ここのクレープ屋の外に人は並んでいない。皆、店内に用意されている椅子に座っているからだ。しかも、出入口のドアは鏡のような素材で、間近で見なければ中の様子は見れないようになっていた。
麻弥はほぼ毎回、このクレープ屋の前を通る度にドア越しに店内を覗いていた。
「時には大胆な行動も必要だ。例えば・・・こういうのなどどうだ?」
一口分噛られたクレープを遥の口の近くまで押し付けた。
「・・・ねぇ麻弥?」
「なんだ?」
クレープを引っ込めず、首を傾げた。
「大胆過ぎ・・・」
「む、そうだったか・・・」
少し頬を赤らめ、クレープを引っ込めた。
周囲の客はそんな二人に目も向けず、ただただ団らんしている。
「・・・この程度なら問題なかろう」
遥との間合を詰め、身体と身体を密着させた。
店内のカップルは向き合って食べているせいか、二人は浮いたようにうつった。
遥の顔がどこか気まずくなる。
いくら麻弥と言えど、身体をくっつけるのは初めてだった。