「アタシが悪いって言うの!?」
 墨色の山々に囲まれたこの場所で。
「アタシの何が悪いって言うのよ!?」
 ヒステリックに、芝居がかった口調で叫ぶあたし。
「アナタにアタシの何が判るっていうのよっ!!」
 誰に言ってるわけでもなく、かといってストレスを発散しているわけじゃない。
 これは練習。
 あたしが[アタシ]になる為の、予行練習。
 あたしはまだ[アタシ]じゃない。
 この予行練習を終えなければ、あたしは[アタシ]になれない。
「なによっ!!この――――」
 ――――あ。
 [アナタ]に何を言うのか、忘れてしまったわ。
 失敗。
 これでは[アタシ]にはなれない。
 でも、あたしは今日中に[アタシ]にならなくちゃ。
 あたしはポケットから指令を取り出した。
 今回あたしがなるのは、37歳 カウンセラーの[アタシ]。
 そりゃカウンセラーなんてやっているんだから、ヒステリックになるのは当たり前よね。
 おおっといけない。
 もう少しで時間になってしまうわ。
 仕上げをしなくちゃ。
 あたしは、あたしに戻りかけた[アタシ]を治しにかかった。
  もうすぐ日が昇る。
 あたしが[アタシ]になり、[アタシ]があたしになるまで、
  あと、もう少し。