それまでの開かれた競争を閉鎖された対立へと導くのに、この四大流感は充分な根拠となった。
思えば、モンゴル帝国しかり植民地支配に乗り出した欧州列強しかり、それは地球時代の類例に恐ろしいまでに酷似していた。
軍事力を背景に巨大な文明圏ないし経済圏が誕生し、かつてはばらばらだった地域や民族集団を結び付けて拡大しながらその交流の規模と頻度を加速させる―もしくは暴走させる。
生き残りに強かなウイルスが新たに生まれた経路に付け込まない筈が無かったのだ。
宙邦主導による人類宇宙のフロンティア時代は終りを告げ―代わりに重苦しい停滞が訪れた。
まず、それまで六0以上あった宙邦群が、わずか三0年の内に一二にまで統合された。
次いで、人的資源の流出を恐れて、外宇宙への植民計画の大半が放棄された。
銀河元号一四三0年には球形に均すと半径一一六五光年にまで拡大した人類宇宙文明の領域も、この時をピークに伸び悩み、一四六0年代からは辺境の拠点の放棄が相次ぎ、遂に縮小を始めたのだ。
これは、月への入植以来、一貫して発展し続けて来た宇宙文明が凡そ二五00年にして迎えた初めての衰退であった。
更に、宙邦群は自国の星民を囲い込むべく過疎星の開発を中止し、そこの住民を中心に幾つかの主要星系に集住させた。
それだけではなく、船団国家や人工植民体までをも解体し、その成員達まで強制的に惑星へと引きずり下ろした。
これが宇宙時代版《エンクロージャー》だ。
各宙邦は人的資源の一元管理の為に、要地の星系に星民のほぼ全てを集め、彼等に定職に就かせ家庭を与えて、簡単に宇宙へ逃げられない様に計画したのだ。
銀河元号一四四一年・宙邦の一つ銀河星民共同体連合は悪名高い《公共の優先的権力による星民の生命及び権力の全面的な保護に関する法律と細則》―通称星民保護法―をその全領域に渡って施行した。
それは、星民の外国への移住をほぼ禁止し、更には産まれた惑星に最低四0年・職に就いてからなら二0年までは国内での移動すら制限すると言う明らかな基本的人権侵害が高らかに謳い上げられていたのだ。
留まり続ける限りはそれこそ孫子の代まで国が面倒を見るが、少しでもその枠から出て行こうとする者からはあらゆる社会保証を取り上げ、重税を押し付ける。
それは星民の農奴化を狙って組まれた制度だった。