訳がわからなかった。今馬乗りになっている敵軍の女兵士が何故自分の名前を知っている?
「……あ!!私の名前は知らないんだっけ。私の名前を教える前にハルは気を失っちゃったから」
そう言うと彼女はゆっくりとヘルメットをとった。
案外短いブロンドの髪が揺れ、兵士というには余りに若い顔が現れた。
「私だよ。覚えてないかな。あの晩から二日も一緒にいたのに」
ハルは息を飲んだ。
忘れるはずがない。
あの晩『UnHappyNewYear』。東京全域が瓦礫の山と化した、1月1日。
雪降る晩、バス停のベンチに寄り掛かって、暇を持て余していたハルの前に現れた月からきたという少女。
白い傘と白いダウンジャケットがよく似合う。
「驚……いた」
もっと大きなリアクションでもよかった気がするが、これが精一杯だった。
「軍に入ってんだね。私も人の事言えないけど」
WW専用のスーツの胸の部分をつまみ上げ、少女は寂しげに言った。
「どうして軍隊なんか」
「……好きで入った訳じゃないよ」
丸くて大きな目がすっと細められ視線がそれる。
「名前、教えて」
少し躊躇って少女はハルの目を見つめて口を開いた。
「アキ…アキだよ」