凄まじい力で、華奢な鍵は脆くも壊れた。
翠はリノの腕を掴み、教室の中央まで下がらせた
ギ…ギギ……
歯ぎしりのような、金属の擦れるような奇妙な音が、扉の向こうから聞こえてくる。
翠が、ぐっと椅子を掴み武器のように掲げる。
カラカラに張り付いた喉から、リノは無理やり空気を吐き出させた。
壊された扉は、開かなかった。
怒りから出たとしか思えない、金属的な高い唸り声が教室を震わせた。
すりガラスの向こうでうごめく影は、間違えようもなく怒りを持て余しているようだった。
腹いせのように扉を殴り付けた後、影は金属音と共に…消えていった。
翠は、殺していた息を静かに吐き出した。
「行った…?」
リノはいつの間にか握りしめ、シワだらけにしてしまった制服のスカートをぎこちなく叩いた。
「多分…何なの、あれ」
普通の人間であるはずはない、とリノは確信していた。
粟立つような鳥肌が、全身で訴えている。
化け物だ、と。
翠はようやく緊張を解き…椅子を下ろした。
とにかく、何にしても奴はここには入らなかったのだ。
そのことが、二人にとって意味のある事実だ。
胃の腑を落ち着かせたいリノは、とりあえず自分の座席に着席し…散らばった作文用紙を取り上げ…その手を止めた。
「翠」
翠は二度は呼ばせず、すぐにリノの側に来た。
「見て」
書きかけの作文を指差し…くるりと裏返した。
「これは?」
「解らない。書いたのは私じゃないって事だけは確かよ」
そこには、赤い文字で様々な言葉が書かれていた
チャイム 3 死は一
出口 逃 明 闇 きけ ん
「何だこれ?」
「…暗号?でも…大事なことだと思うわ」
窓のすぐ向こうに未だに変化なく横たわる暗黒、そして徘徊する影…。
こんな解らない状況に、この紙の意味するところは…?
リノは机に広げた紙を睨むように見つめた。
直感が、これは大事だと告げている。
呑気な日常から一瞬で
「直感」ばかりに頼る世界への転身に、戸惑ってばかりもいられない。
「意味わかるか?」
沈思黙考。
リノは目まぐるしい勢いで考えていた。
そしてふっと息を吐き、ニッコリした。
「お手上げ。でもきっと大事よ」
「そうか…そうだな」
二人は青ざめたまま、見るともなしに視線を窓へと走らせていた…。
この世界への疑問に、暗闇が答えてくれるかのように。