いつ以来だろう、人前で泣いたのは。
子供の頃にはできたのに、大人になるとできなくなる事は意外と多い。
ズル休み。
殴り合いの喧嘩。
スカートめくり。
泣く事もそのひとつ。
その代わりに手に入れたもの。
傷付かない為の、嘘。
誤魔化し。
諦め。
人前で裸になれた頃は必要なかった。
周りのみんなも裸だったから。
傷付かないよう着膨れた僕らは、一人じゃまともに歩けない。
手を繋いでくれる、同じように着膨れた人を探すんだ。
出会った頃は転ばないよう下ばかり見ながら歩いてた。
君も同じだったね。
二人で歩く時は自然に前を見る。
転ばない自信もあったし、例え転んでも一緒に笑える気がしたんだ。
初めて君を抱いたあの日、君があんなに泣くもんだから、「ありがとう。」なんて言うもんだから、いつ以来だろう、人前で泣いたのは。
今でも、あれ程泣いた事はないだろう?
今でも、あれ程笑った事はないだろう?
僕もだよ。
君を亡くしてからは。
君があんなに安らかな顔だったから、涙なんか出やしなかった。
君がいなくても、一人だって歩いていける。
下を見る代わりに、空を見上げる事が多くなった。