「―――ただいま」
「お帰りなさい。[アナタ]」
 [アタシ]は[アナタ]に笑顔を向ける。
 少しの時間だったけれど、あたしは仕上げを終えて[アタシ]になれた。
 おかげで[アナタ]は[アタシ]を全く疑っていない。
 でもまあ、それもそのはず。
 あたしは[アタシ]だもの。
「ん?どうかしたか?」
「あっ、ううん。なんでもないわ」
 危ない危ない。
 そういえば、[アタシ]はヒステリックってことになっていたわね。
 どうしましょう。
「そういやお前、病院はどうだったんだ?」
「えっ?」
「? ほら、昨日言ってたじゃないか。今日の朝に行ってくるからって」
 今日の朝...あたしと[アタシ]が入れ替わった時じゃない。
 そうか。[アタシ]は病院に行くって言っていたのね。
 好都合だわ。
「―――ええ、薬を貰ってきたの。毎日飲めば平気らしいわ」
 にこりと笑って[アタシ]は言った。
 もちろん嘘だ。
 でも、変核剤は毎日飲まなければいけないから、ばれることはないと思う。
 簡単かもしれないわ。
「なあ、お前―――」
「なあに?[アナタ]」
 造り変えた顔の上の、さらなる造り笑い。
 造り笑いだと判った人は、今まで誰もいない。
 ほんのわずかでも、判る人などいなかった。
    いなかったのに
「...いや、なんでもないよ。疲れているのかな。おかしいよな、お前の顔が―――」
 誰一人として、いなかったのに
「―――全くの別人に見えるなんてさ」
**********
  ある日、その女のもとに一通の手紙が届いた。
 手紙にはこう書かれていた。
貴方も交換社員になりませんか!?
当社は派遣会社をもとにした会社『派遣交換会社』です。
交換社員とは、自分とはまったく違う他人になり、その人として生きる派遣社員のことです。
他人になるにはどうするのか。それは、我が社の製薬グループが開発した『変核剤』を飲めば、他人になることが可能なのです。
少しでも気になる方、ご質問がある方は、こちらへご連絡下さい。
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派遣交換会社『チェンジャー』