幾度かの野宿を経て、今日の昼には港に到着するだろうという時。
妖需はぶっちゃけ困っていた。
「………」
「………」
「〜〜♪♪」
ていうかどうなの。口笛吹けないからってひゅーひゅー歌うのって。
ジンさん。お願いだから。ちょっと落ち着け?
メシアのあの一言で……
あれから、誰ひとりしゃべろうとしない。
それどころか目も合わない。皆地面を凝視している。
なんていうか……気まずいんじゃなくて……そう、照れ臭いんですけど!!
見てみなよディルの顔。
もともと珈琲みたいな色してるのに、気色悪い事に未だに頬をちょっと赤らめてたりするから赤黒いんですけど。
てか赤茶?髪と見分けが付きません。
「………」
なになになにこの無言。あー痒い。蕁麻疹かなぁこれ。
不覚にもちょっと(いやかなり)感動しちゃって、ほんとどうしようもないくらい
さ け び た い 。
歌う位ならなんとかしろ。
吹けないなら半端に吹くな。
吹いてもいいけど。別に。状況を打開できるのがキミだけだって気付いてるよね?
ディルでさえ、さっきからジンのことをチラッチラと。お前その窺い見方は気をつけないと変態チックだぞって言ってやりたい。
いっそ昏倒するまで二人とも水責めにでもしたい。
だって気付いてるもんね?
明らかに状況を楽しんでるよねその満面の笑み?
至上の幸福ですね羨ましい。
"風矢"を敵の懐に正確に屠りながらこんな事を考えていられる自分にちょっとした自信を覚える。
フィレーネは二本足に慣れていないせいか少々覚束ない足どりだが全然役に立たないディル=トリン=ギセア改めディル=浮世一分五厘=ギセアとメシアをうまく守ってくれている。
私は、そもそもなんで私は浮世一分五厘とか知ってるのか。
すっごいぼっへ―――ってしてるし。適切だけどさ。
世の中舐めてるとしか思えないよねほんと。
"魔物"よりこっちを成敗した方がよかったかも、とか思ったりして。
少しずつ、お互いの癖を知って、僅かに私達は纏まりつつあ、る………と思う。が。
なんか空気が臭い。もう港は近いらしい。