リノは立ち上がり、汚れた体操着姿の翠を振り返った。
「考えよう」
頭がショートするくらい様々な疑問が渦をまく。リノはもう一枚の白紙にペンで書き付けた。
1 ここはどこか
2 あの化け物はなにか
3 何故入って来なかったのか
4 紙に書かれた文字の意味は?
「こんなとこね」
翠は感心したように頷き腰を降ろした。
「ここはどこ…か」
「うん。だって、気付いてた?他に誰もいないし…外だって変でしょ?
なんか現実じゃないみたい」
「…足は平気か?」
何気なく触っていたのに気付かれてしまい、リノは慌てて手を離した。
「大丈夫よ!翠こそ私を背負ったりして平気なの…意外と重いのよ?」
「知ってる」
馬鹿!と笑ってため息をついた。
「この闇に…入ってみるか?」
「…だとしても、ここは二階よ。地面も何も見えないから、解らないけど…飛び降りるのは嫌」
「だよな…」
二人の脳裏に、あのギギギ…という唸りが巡っていた。
一階に行く、ということは…安全圏内とされる
(それさえも多分だが)この教室から出ると言うことだ。
「何故かな…」
「ああ。何であいつはここに入らなかったんだろうな…?」
それだ。
いま一番考えなきゃいけないのはそれだ。
リノはペンを紙にコツコツ叩きながら…目を閉じた。
ここと他の違いって何だろう?
もしくはあいつの知能が低すぎて、開けられなかった?
いや…あの力なら扉は壊せた…。
「…かり…」
えっと翠が聞き返す。
「明かりよ。あいつは明かりが怖いんだわ…きっとそうよ」
まさにそれが正解であるかのように、いきなりチャイムが鳴り響いた。
「チャイム?」
二人同時にスピーカーを見上げた後…
蛍光灯が点滅した。
一回……二回……
またたく蛍光灯。
「嘘…消えないで…」
消えれば、訪れる暗闇。
「リノ!」
明滅する電気を祈るように見上げ…蛍光灯は元通り輝きを取り戻した。
チャイム…
リノは汗ばむ手であの紙を握っていた。