第一話「無」
僕は、世界の終わりというものを目にした。
見るもの全てが無。これこそが、世界の終わりだと思った。
僕が生きていた頃に見たことのある色では説明がつかない。
ここはというより、『ここ』というものがないようだ。これが無というものか。
僕は自分の体を見ることが出来なかった。見ることが出来ないのではなく、僕の体はそこには無かった。
だが確かに、僕は今こうして何かを考えることができる。
生きているのか、そうでないのか。それも分からない、変な感じだ。
世界の終わりというのに、僕はどうしてこうしていられるのだろう?
どうして、どうなった、なにが、なぜ? 様々な疑問が、僕の中だけで巡る。
「私が教えましょうか?」
さっきまで無だった世界に、何かを僕は感じた。
耳で聞き取るのではなく、直接僕の中に語りかけてくるようだ。
その声らしきものは、穏やかだった。全てを包み込んでしまうほどの、穏やかさだった。
つづく。