その日、世界には恐怖の大王が降り立った。
だが、恐怖の大王は一台の洗濯機によって駆逐され、この世界には平和が戻る。
僕はこの話をみんなにするのだが、未だ誰一人として信じてくれた人はいない……。
それから数カ月後。
コインランドリーでは乾燥機がぐるぐると、今にも壊れそうな危うい音をたてながら、洗濯物と熱風を回していた。
数分前に投入した100円だが、今の表示は10円。もうすぐ終わるかなと、僕は読んでいた雑誌を閉じて乾燥機の前に立った。
まるで僕が目の前に立つのを待ち構えたかのように、電子音をたてて止まる乾燥機。
僕は乾燥機へと伸ばした手を止めて、沸き上がる何かを抑さえるかのように、ぐっと歯を食いしばる。
「ヘ-6号、なんでお前は……」
乾燥機や洗濯機を見ると思い出してしまう。誰にも知られずに、世界を救った英雄のことを。
彼の活躍は誰にも知られない筈だった。
だが彼の存在を、僕は知ってしまった。彼の活躍を僕は知ってしまったのだ。
彼―――こと、誰からも知られずに世界を救った全自動洗濯機゙ヘ-6号"
そんな彼の活躍を、僕は君に話そうと思う。