チャイムが鳴り響いたあと、蛍光灯は明るさを取り戻したかに見えた。
が、翠は小さな声で呟いた。
「違う」
「…何が?」とリノ
「明るさが。鳴る前の方が明るかった気がしないか?」
はっとして、リノは天井を見上げた。
確かに…さっきより光りが弱い。真っ白だった明かりは、青白いといえそうな輝きに落ちていた。
リノの頭に、突然、天啓ともいえる閃きが走った…もしも…もし、この紙の意味する所が、私達の生き延びる為のヒントだとしたら…?
「翠、急いで逃げよう」
リノの静かな、しっかりとした決意を含む声に翠は振り向いた。
「私の考えが当たっているなら…急がないとダメよ。チャイム…3…明…出口…危険…闇…死…逃…。もし、この言葉の意味がこうだったら?」
リノは声に恐怖が滲み出ないよう、ゆっくりと話す。心の中は叫び出したいほど怖かったが。
「チャイムが…チャイムが三回鳴る度に明かりは闇に変わる。その前に出口に逃げなくては死が訪れる…」
口にした瞬間、翠がそれを信じたのが解った。
彼は少し青ざめ…それから真っすぐな瞳をリノに向けた。
「…間違いないな。それは、その紙は俺達が生き延びる為のチャンスをくれてるんだ。…何の為かは知らないけど」
「見て。時計は元の世界と同じように進んでる。恐らくここにきてから一時間は経った筈よ。つまりチャイムは一時間前後で鳴るんだわ。…だとすると…」
「残ったのは…二時間」
リノは鞄に自分が家から持って来ていた全てを詰め始めた。
この際、何が役立つのか解らない。
事実、意味のないと思われた原稿用紙に生きる術が書いてあったのだから
翠は勢いよく掃除用具の入ったロッカーに向かい中にあった箒を掴む。
「ないよりゃマシな程度の武器」と呟いた。
リノは翠にカッターを投げた。
「それで柄の部分を尖らせて。少しはマシよ。粗くてもいいから」
リノ自身は教壇に活けてあった花を捨て、ガラスの花瓶を床に叩きつけた
「うわっ!ビビった。なんだよ、ヒステリー?」
リノはジロリと睨んで、何も言わず大きな破片を選び、教壇のなかにあったガムテープを取り出した。
破片の三分の二程度をテープでぐるぐる巻にし、自分の左手の甲にそれを乗せ、更にテープで即席ナイフを巻く。
こうすれば指は自在に使えるし、グーを相手に突き出せば、鋭い破片が刺さる。
「お前って…なんかスゲーな…」
「それって褒めてる?」