《東京都Z区・第一中学校》
会長室には事態の成り行きに一喜一憂する男が一人。
生徒会長の太田カツヒロだ。
雲一つない青空、開かれた窓からまんべんなく降り注ぐ日差しが鮮やかに装飾する赤絨毯の上を、しかし彼は深刻気にせわしなく歩き回るのみだった。
檜材の木製ドアの前に立つ副会長・エウフセラ=ナールマンの185センチの長身は、その光景を多機能ゴーグル越しに無機質に眺めている。
否。
より正確には、観察していると言う方がふさわしかった。
『エウフセラ―ここの会長は誰だ?』
そのエウフセラに向けて、足も止めぬままに太田カツヒロは、もう何十度目にもなる質問を浴びせた。
『無論貴方です。太田会長』
同じ返答を繰り返しながら、これで963度目かと内心でつぶやいた。
質問の回数ではない。
会長が絨毯の上を往復する回数だ。
『エウフセラ―俺はこのまま会長でいれるか?』
ようやく太田カツヒロは問いかけの角度を少しだけ変更した。
だが、エウフセラは無言のまま多機能ゴーグルに電子光を踊らせるのみだ。
『いや、違う』
太田カツヒロは激しく首を振り回しながら、なおも室内競歩を止めない。
『俺の命は保たれるか?』
太田カツヒロの恐れの全てが、それだった。
『俺は死にたくない―死ぬのは嫌だ。このまま闘えば死ぬかも知れない。だが今会長を降りれば―死ぬ所か殺される』
そう激しく一人ごちる会長を、腕を組みながらエウフセラはまるでつまらないテレビ番組を見ているかの様に眺めていた。
だが、その目線に気付く余裕すら今の会長からは消えていた。
『俺はまだ14才だ。こんな年で死にたくない!例え卑怯と呼ばれようが臆病と罵られようが、俺はこの身が可愛いのさ』
そうだ。
自分の学校の女子生徒の生命なんかどうでも良い。
所詮他人の命じゃないか。
自分の学校すらどうなっても構わない。
別に今の学校を守るために生まれて来た訳じゃないじゃないか。
ましてや―\r
梅城ケンヤの理想なんかどうでも良い!
これこそ迷惑千万だ。
糞喰らえだ。
大体イジメが今の今までなくならない自体が、人間の本性を見事に証明してるじゃないか。
人は身勝手だから他人をイジめ、同じく我が身が可愛いから黙ってそれを傍観する―\r