車から降りたのは二人の男。
一人は金髪の髪を無造作に伸ばした彫りの深い男。
そしてもう一人は黒髪の東洋的な顔立ちをした男。
欧米人と東洋人。
そんな二人の共通点は夜の闇に溶ける様な黒いコートを羽織り、そして夜だというのにサングラスを掛けている事だ。
「久しぶりの汚れ仕事か…
キツいぜ…」
金髪の男はそう呟いて、目の前の高い塀を見上げた。
「仕事だと割り切ってやるしか無いだろ。
嘆いていても仕方ない。」
「そうだけどさぁ… 拉致だぞ?
しかも相手は…
お前何とも思わないのか?」
サングラスの奥には疑惑と、良心の苦痛に苦しむ男の顔が見えた。
「俺だって良心は痛む。だが俺達に拒否権は無いんだ。
さっさと終わらすぞ。」
黒髪の男は顔色一つ変えないで、さらりと言った。
しかし、実際は良心を冷徹な仮面で覆っているに過ぎない。
「へいへい。」
金髪の男は現実から逃げ出したい弱みが現れているのか、やる気の無い返事をした。
金髪の男は懐から、チョークの様な形をした銀色の物体を取り出した。
そして塀に向かってそれを向けた。
銀色の物体からは赤い光の線が放たれた。
どうやらレーザーポインターのようだ。
そしてレーザーを円を描く様に動かした。
しかし何も起こらない。
だが黒髪の男が線を描いた部分を触れるとレンガの塀はまるで水面に指を突っ込んだ様に波立った。
「行くか。」
金髪の男はさっきまでの迷いのある声では無く、迷いの無い、冷酷な声でそう言った。
「あぁ」
黒髪の男がそう答えると、冷酷な仮面を付けた二人の男は塀の中に幽霊の様にズブズブと入って言った。