「セイヤアァッ!!」
木村猛の気合いのこもった掛け声が、道場の板壁に反響してビリビリと震わせる。
「うふふっ、…元気がよろしい事。 そのうち声も出せなくなるけどね♪」
そう言ってペロッと舌を出した城崎涼は、猛の右方向へとゆるやかな旋回を始めた。
(この動きは?……そうか、アレだ)
「太極拳……か。 悪いけどウチの道場でも稽古に取り入れてるんだ。
中国四千年の秘伝も俺には通用しないよ」
「お生憎さま。 これは、我が家に代々伝わる武芸なの」
余裕綽々で切り返す涼。
その返事を聞いたと同時に、猛の怒濤の攻撃が開始された。
「ウオリャアッ!セイッ!セイッ!」
烈帛の気合いと共に鋭い突きが中段・上段とひらめき、左前蹴り・右回し蹴り・左逆回し蹴り・右後ろ回し蹴り、と続く。
涼は端正な姿勢を保ったまま、風のような軽やかな動きで相手の攻撃をかわし続ける。
「ハァーッ!!」
と脳天から突き抜ける声をあげた猛は、かかと落としから踏み込んで単鞭・高探馬・双風貫耳と太極拳の柔軟な技を含め、目まぐるしく攻撃を繰り出す。
…………が
(当たらない…… かすりもしないなんて、畜生!)
「今度はあたしが攻めても構わない? ふふ♪…」
一瞬スッと目を細めた涼が、突然ワープしたかの様に猛の視界一杯に迫っていた。
「ウオッ?な、何だァ?」
「エ――イッ!!」
手首を掴まれ、みぞおちに肘打ちが入ったと思った刹那、猛の視界は天地が逆さまになっていた。
続いて首の付け根から背中にかけて激しい衝撃が襲いかかる。
(合気道……とも違う…)
薄れゆく意識の中、木村猛は自らが浴びた技を反芻(はんすう)していた。
フッと意識が途絶える寸前、『大東流…』と呟く声が耳に残っていた。