「准将、あおかぜが到着した模様です」
待ち侘びましたね。とばかりに目を向ける秘書に対し土田光太郎は素っ気なく
「んむ」
とだけ返した。少し残念そうな顔をしながら秘書は土田の指示を待っていた。
「今、準備をして行くからクルー達に休憩をとらせるように言ってくれ」
「畏まりました」
一礼をして出ていく秘書の背中を見つめ土田は息を吐きながら椅子にもたれかかり、机の上の万年筆を手の上で弄んだ。
帰ってきてしまったか。
率直な感想だった。
歯車は外れる事なくガチッガチッと音を立ててゆっくり回っている。
いつから動き始めた?
もうわからなかった。
「あ、もう一つ。」
秘書がドアノブに手を掛けながら振り向いて言った。
「例の捕虜の事ですが、新しい報告では女の子だそうですわ。」
全身が強ばった。手の上から落ちた万年筆が大理石の床で音を掻き鳴らしながら踊る。
解るでしょう?といたずらっぽく笑って秘書は出ていった。
ゆっくりと回っていた歯車が突如ガタガタ鳴りながら激しく回る。今にも崩れそうな程に。
土田は窓の外を見た。
“天使”の横たわる基地内整備スペースは喧騒に包まれていた。