涙が滲む。
強烈な痛みと腐臭に、リノは耐え切れず目を開け…声にならない悲鳴を上げた。
自身の黒い血液で顔中を濡らしたモノはもはや山口先生の面影さえなく…血に飢えた獣のように、リノを組み敷き、歯を剥き出していた。
その喉奥から金属を擦り合わせる音。
「いや…」
か細い声に被さるように黒く汚れた影がリノの白い喉へと降りていく。
大きく開けた口が肌に重なる…。
ガアァンッッ
リノを縛っていた影の重さが、不意に取り除かれた。
「リノ!!」
ぼやけた視界に、椅子を持ち怒りに震える翠の姿が映った。
リノを助け起こそうと手を伸ばしたが、
その手を引き寄せたのは影。
まだ動けずにいるリノを翠は叱咤した。
「リノ!どけ!早く…」
行け、という言葉はおおい被さってきた影によって邪魔された。
横たわるリノの腹部を躊躇いなく踏み付けようと足を降ろす間際、リノは素早く這い出した。
「み…翠…」
突き倒された時に激しく打ち付けた頭が意識を霞ませる。
翠は影と揉み合っているようだった。
椅子はもぎ取られ、それでも必死で引き止めている。
「リノ…行け…」
リノは這いずって階段を降り切り1番近い教室を目指した。
明かりを…明かりを付けなきゃ……
教室まであと少し。
その時、頭上から降り注ぐチャイムの音…。
同時に非常口の青白い明かりが消え……
辺りは真の闇に包まれた
ギギギ…ギギギ…