クロは当然だという顔をする。
「そりゃダイダイ、お前が人間になったから、ルリも道連れにされたら困るからに決まってんだろ」
「……!」
裕一は呆気に取られた。自分の耳を疑う。
(ダイダイが、人間になった……?)
想像の看守が異質な存在だということはわかっていたが、まさか。こいつらはそもそも、人間ですらないのか?もし万が一俺がダイダイだとしたら、つまり、俺は想像の看守で、想像の看守だった頃の記憶をなくしてて、異常なルートで人間になったと……?
青ざめた裕一に気づき、キンが一層強くクロの腕をスティックで叩いた。
「痛っ!」
「バカクロ!裕一は裕一だよ!この子はダイダイじゃないし、想像の看守ですらないよっ!」
キンの真剣さに、あのクロでさえたじろいだ。
「裕一は普通にこの世界に生まれ落ちた『人間』なんだ!」
「……フン。どうしてそう言い切れる?」
クロはすぐに己を取り戻すと、腕組みをしてそっぽを向いた。
「こいつがダイダイじゃない証拠はどこにもねぇだろーが!」
「ダイダイだという証拠もどこにもないよ」
「……っ」
クロは鼻面にしわを寄せ、すごいしかめっ面をした。普通の人と同じように見える黒い瞳は、強い苛立ちにギラギラと光っている。
クロは不意に頭をがしがしとかきむしると、うぅっ!と唸った。急に大声で叫び出す。
「あー気に入らねぇ!何もかも気に入らねぇ!!」
裕一はびっくりして顔を上げる。鬼のような形相のクロがこちらを睨んでいた。
「お前がダイダイじゃねぇなら、お前は一体誰なんだよ!?ダイダイとそっくりな顔、声、仕草、おまけに性格まで似てやがるっ!それなのにお前は、ダイダイじゃねぇっていうのか!?だったらお前は――」
「ダイダイの生まれ変わり……」
キンの呟きに、裕一もクロもぎょっとしてキンを振り返った。
キンは目を細めて裕一を見つめる。
「……ボクは少なくとも、そう思ってたよ。初めから。ダイダイ本人じゃないか、一応確認したけど、裕一の様子から違うって思ったし」
「ち、ちょっと待てよ……」
クロが、驚くほど狼狽していた。
「じゃあまさかダイダイは……?」
キンはその時、初めて気の毒そうな顔でクロを見た。
「残念だけど、彼はもう、どこの世界にもいない……」