翠の死は必然だった?
それなら、影の豹変も納得できる。
翠が死んだ、その時から影はこちらに興味を示さなくなった。
私たちのどちらかが、始めから死ぬ運命だった?
そんな…。
リノは顔を覆った。
翠…!
翠、ごめんね…!
本来なら、翠が生きていた筈なのに。
私をかばったせいで、翠は…。
でも、それなら私は行かなきゃ。
リノは唇を強く引き結びガラス扉にそっと触れた…。
翠の死を無駄にすることは、出来ない。
そんなこと、絶対にしちゃいけないのよ。
リノは両足を揃え、きっと前を見据えた。
このなにもない空間に飛び込むのは恐ろしい。
でも、やらなきゃ。
振り返ったらダメよね?…そうよね…翠。
リノは思い切り、ジャンプした。
闇との境を飛び越え、何が待つか解らない向こう側へ。
はるか彼方の頭上で、最後のチャイムの音が聞こえた気がした。
眩しい。
眩しい……
真っ白い天井。
日差しが目に入り、余りの眩しさに、瞳から涙がこぼれおちた。
リノはギュッと両目をつむり、ソロソロと開いた…頭が痛い…。
横に首を振ると、黄色い液体を入れた袋がぶら下がっていた。
点滴…病院……?
そこでリノの意識は再び遠退き、深い眠りについた。
面会謝絶が解かれたのはそれから二日後。
両親の抱き合わんばかりの狂喜が収まると、今度はお見舞いに来た人々で個室はごった返していた
そのなかで、リノは知りたかった真実を手に入れた。
大地震。
あの日。
震度六の地震に見舞われた学校は、手抜き工事が原因で二階部分が潰れてしまったのだ。
あの日、あの場所にいたのは…リノ、翠、山口の三人で…。
捜索隊は殆ど、絶望視していたらしい。
実際、リノ以外は即死だったらしく…。
「即死?」
それを知った時、リノは周りがギョッとするほどの大声をあげた。
即死だったなんて…。
ベッドに座り考え深げにしているリノに、小学生の頃からの親友である高瀬美羽は隣に腰を降ろし…ねえ、と肩を突いた。
「あ…ごめん、なに?」
「ねえ、親友の私だけには教えてくれるでしょ」
キョトン、と見返すリノにもう!と美羽は怒る。
「一階を見回ってから避難した生徒が見たって言ってたよ」
「…なにを?」
「私も好きです、リノ
って書かれた黒板…ってあれ?ち、ちょっと…なんで泣くの?」
好きだよ…翠
終