ある時、男は小さな光を手にしていた。
まったく、
「ここまで小さいと、話すのも一苦労なんだよな・・。」
え?なに?
「・・・・・。」
・・・・
「・・・わからん。」
俺も、精進がたらんなぁ。
男は大事そうに、光を懐に入れ、
ちょっと、ここで暖まっててくれ。
「やれやれ、最近は特に忙しいな。」
男は大きなビルの中へと入って行った。
最上階の硝子張りのへやで、餓えとオムツの不快感から、泣き叫ぶ赤ん坊を抱き上げた。
よしよし、
「・・、参ったな、オムツにミルクか。」
男は辺りを見渡した。ショールームの様に、小綺麗な台所の隅から哺乳瓶をみつけると、
それ
と声をかけた。哺乳瓶は
たかこと
一人動き、そこから飛び降り、粉々になった。
さ、て、
「後は、オムツ。」
男は部屋を探し回ったがみあたらない。
仕方ない。
男は、赤ん坊のお尻辺りを
ふいふい
とやった。
これで、よし。
「え〜と、ミルク、ミルク。」
男はいつの間にか哺乳瓶を手にし、何もない空間から垂れる白い液体を受けた。
よーし、これでいい。
白い液体がいっぱいになったところで、男は赤ん坊に与えた。
勢いよく赤ん坊は飲み始め、あっという間に空になった。
「すごいね。」
さぁ、行こうか。
と振り返って、男は何か視線を感じた。ありえるはずのない視線を。
!!
「ま・まさか、あんた見えるのか?」
「あなた、誰?」
女が一人立っている。女は、男の手元に釘付けになった。
ああ
女は男の腕の中にいる赤ん坊にとびつこうとした。
ま、待った。
男は飛び下がって、赤ん坊と、赤ん坊の元いた場所を、女から隠した。
「触るな、この子のためだ。」
返して、私の子よ。
「あなた、あの人に何を言われてるか知らないけど、これは誘拐よ。犯罪なんだから、返して!!」
女は聞く耳を持とうとしないものだから、男は赤ん坊と赤ん坊の寝床を持って、部屋中を
わたわた
逃げ回った。
お、おい、待て待て。
「俺はちがう、この子を助けに来たんだ。」
「騙されないわよ。そんなこと言って、子供を返さない気でしょ。」
女は男を追いかけながら、喚く。目が血走って恐ろしい形相だ。
ああ、もう。
「話しを聞け、もうこの子は死んだんだ。俺はこの子の魂を救いにきたんだっ。」