『そうそう、未來。菅山さん家の明日香ちゃん。来月結婚するそうよ。』
『ふーん。そうなの。』
誰だよ。それ。僕には全然関係ない話。
如何にも興味が無いという返事をした筈なのに、
母は、やはり強引に話し続ける。
『あんた、もう23にもなるのに、家に女の子一人連れて来た事ないじゃない。』
『うん。そうだね。』
母は、僕が女の子と付き合った事が無いという事を、かなり心配している様だ。
『ご馳走様。』
そんな母を振り切って、僕は二階の自分の部屋へ向かった。
今日は、かなり疲れていたから、僕はネクタイは外したが、ワイシャツは脱がず、スーツのパンツを穿いたまま、
まるで吸い込まれる様に、そのままベッドに倒れ込んだ。
『バカヤロ――。僕だって好きでダメ人間やってる訳じゃない‥‥‥。』
思わず呟いてみた。
部長に怒鳴られる事には慣れていたけど、彼の怒鳴り声が、いつもに増して甲高く、
更に長々と続いたのと、
帰りの電車が珍しく超満員で押し潰されそうになった事で、
僕の心のブルーは、一層深みを増したから、
僕は、凄く久しぶりに思い出したくもない過去の記憶を思い出してしまったんだ。
思い出したのは過去の記憶だけじゃない。
僕は、たった今まで押し寄せて来ていた睡魔が、嘘の様にすぅ―と引いていくのを感じた。
そして、物凄い勢いで履歴書を書いた。
勿論、貼った写真は今の会社の面接用に使用した余りだったけれど。