記憶〜燎編-1〜

嵯峨野 龍  2008-04-12投稿
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ピンポーン
今朝も、ボクはいつものように彼方を起こしに家に来た。まぁ、いつもといっても、彼方が退院してから、なんだけれどね。
「…………。」
やっぱり、今朝も起きてこない。分かってたことだけど、やっぱり少し呆れる。けど、少し嬉しい。
「しょうがないな〜。」
ぼやきながら、鍵の隠してある犬の置物に手を伸ばす。これは、記憶喪失になる前の彼方が隠したもので、今の彼方は知らない。…知らないままでいて欲しい。
ガチャリ
鍵を開けて中に入る、家には彼方しかいないから、挨拶する必要はない。

コンコン コンコン
「彼方?起きてる〜?」
二階にある彼方の部屋をノックしながらそう訊く。
「………お〜う。」
少しして、間延びした声が返ってくる。
「じゃあ、用意してるから、早く降りてきてね。」
「分かった〜。」
ありゃ、ボクが来るまで眠ってたな。

「どう?美味しい?」
「あぁ、まぁまぁな。しかし、毎朝おんなじこと訊くよな。」
「彼方で実験してるからね。」
「マジかよ!?…ハァ、うまいからいいか…。」
もちろん、実験なんていうなは嘘。実験しているのは、父さんでだけ。彼方ではやってない。
彼方は、昔からこうやってボクが起こしに来ているんだと思っているけど、それは違う。本当は、彼方が記憶喪失になってからだ。それまでは、ボクが話しかけても無視するし、時には酷いことを言われたこともあった。だから、お見舞いに行ったとき、彼方に『君、誰?』と言われたときはなんとも思わなかった。それ以上に、彼方が僕と普通に話をしてくれるのが嬉しかった。
嬉しかったけど…。

(ボク、嘘ばっかりついてる)
彼方の顔を見ながら、そう思う。
いつからだろう、彼方に友達以上の想いを抱いてしまったのは。
ここだけの話、彼方は密かに女子に人気がある。背は高いほうだし、顔も整っている。まぁ、彼方はそれに気付いてないけど。
「ん?俺の顔に何かついてるか?」
彼方の顔をじっと見ていたからか、不思議そうに訊いてくる。
「うん。口と鼻と目がついてるよ。」
「なにぃ!?本当か!?…って、そりゃついてなきゃおかしいだろうが!」
「アハハー、だまされた〜。」
ボクが笑うと、彼方もやれやれといった感じで笑う。

…いつか、彼方は僕以外の女性を好きになる。記憶が戻れば、また酷いことを言われるだろう。
だから神様。どうか、今だけは、ボクが彼方と共にいることを、許しください。



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