銀のテーブルの上には、すっかり冷めてしまったココアが一つ。
ルリはむっつりと不機嫌な顔でマグカップを取り上げると、ぐいっと残りを飲み干した。
乱暴にカップをテーブルに置くと、ごん、と鈍い音が響いた。
「ルリ……」
ミドリが不安げにこちらを見ているが、ルリは見向きもしなかった。
「クロはまだなの?」
「まださっき発ったばかりだよ」
「…………」
ルリは立ち上がる。テーブルに手を置くと、落ち着くためにハァーと大きく深呼吸した。
――どうしてこんな事になった?
元はと言えば自分が原因なのを思い出し、自分の愚かさにほとほと嫌気が差す。
(キンがあれほど言ったじゃない。彼……ユーイチの事は、二人だけの秘密だって)
しかしルリは、どうしても我慢できなかったのだ。喜びのあまり、ついこっそりとミドリに話してしまった。そしてそれをたまたまクロが耳にしてしまい、今に至る。
しかしまさか<部屋>に閉じ込められるとは……。
(クロは……一体何を考えてるの?)
自分とユーイチを近づけさせない為、というのはわかる。クロの気持ちを知らないわけでもなかった。しかし……。
(ダイダイが……いえ、ユーイチが、私をさらうとでも思ったのかしら?)
あり得ない。彼はそんな事をする人間じゃない。ダイダイがどんな人間だったか、クロは忘れてしまったのかしら?
ルリはそこまで考えてハッとした。しまった、と口を手で覆う。ルリはそもそも、根本的な間違いを犯していたのだ。
初めて会った時のユーイチの顔が、脳裏に蘇る。
戸惑いと喜びの入り交じった、優しい顔。苦しそうな顔を。
(そもそも彼はダイダイじゃないかもしれないのに、私ったら……!)
あんなに浮かれて、騒いで。急に恥ずかしくなってきた。しかし、ミドリがじっとこっちを見ている手前、バツが悪そうな顔もできない。
感情を押し殺す為に、意味もなく見慣れた<部屋>を見回す。完璧な正方形で、十畳ほどのなかなか広い部屋だ。壁も床も天井も、目が痛くなるほど白い。そしてここには――ほとんど何も置いてない。