高瀬 美羽という少女は
小学三年生の時、靴や教科書を隠されたが、それをイジメとは受け取らず「私と親しくなりたい人が言えずにやった」行為として捉えていた。
五年生の時、バレンタインのチョコレートを好きな男子から「受け取れない」と返された時、「チョコレートが嫌いな人がこの世にいるんだ!」という衝撃を受けたのみだった。
そして中学一年の時、クラスで1番可愛くて、頭のいい大橋 リノに出会った時、この人こそ私の親友になるべく出会ったのだ、と思い込んだ。
美羽という少女は 図太く、鈍感。
よく言えば、絶対にめげないポジティブウーマンと言える。
つまり。
20分もすると「幽霊」という存在に慣れてしまった。
気味は悪いが、ただそれだけだ。
そのうえ、美羽は幽霊の言葉に耳を傾け始めていた…。
「っていうことは…つまり貴方は私に頼み事があるというわけね」
そうだ、と声が答える。
「えーと、あんたは名前が城下幸太郎で…死んだのはいつかよく解らないっと。んで、年は多分30歳くらい…」
声が肯定する。
「で、私に何を頼みたいのよ…成仏なら無理よ。私、霊媒師じゃないんだから…それともそうなのかな。それなら、もしかテレビとか出ちゃったりする?」
落ち着け、と諌められ、美羽はぷうっと膨れた。
「すいませんね。早く言ってよ、何をさせたいのよ?」
……… 。
「ふーん、私にあんたの奥さんを捜して欲しい訳ね?…で、うまく殺して欲しい…と…って、ちょっと待て!こ、殺すってあんた…」
思わず声を荒げたその時後ろから声がした。
「ちょっと、大丈夫?」
「わあっ!」
ベッドでやましい事をしているのを見つかった男子並に、オドオドと振り返る…と、そこには心から気遣わし気に見つめるリノの姿があった。
「リ、リノじゃない。」
「殺すのなんのって聞こえたけど…まさか私の事じゃないでしょうね?遅くなるって言ってあったでしょう?」
知ってますとも、と張り付いた笑顔で答える。
幸い、「声」も驚いているのか、今は何も語りかけて来なかった。
「やだ、美羽ったらずぶ濡れじゃない!風邪引くよ?」
「あらま、本当。夢中で気付かなかった」
「何に夢中なの」
あー馬鹿!
リノは異様に勘がいい。下手な言い訳などすぐに見破ってしまうのだ。
秀才の友達っていうのも考えものだ。
「う…歌よ。魂のソウルよ。マイブームなの」
…苦しい…。