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それから数週間が過ぎた―\r
僕を取り巻く環境には、相変わらず何の変化も無かったし、
会社内でダメ人間のレッテルを貼られている僕は、毎日あくせく仕事に追われていたから、
履歴書を送った事など、すっかり忘れていた。
そもそもあれは、それ程深く考えずにポストに投函した。
それは、まさか僕の履歴書がオーディション主催者の事務所関係者の目に留まる可能性など、
限りなくゼロに近いと、僕自身が僕自身の事だけに十分理解していたからだ。
その理由の一つとして、これだけは確実に言えるのは、
履歴書に、かなり不真面目な内容を書いた事。
その内容や筆跡は、誰が見ても誠意を感じられるモノではないだろう。
要するに、あの履歴書は僕の日頃のストレスの捌け口となり、
愉快な事に、常日頃“小心者”で通っているこの僕が、
ソレをポストの中に投げ捨てた様なものだ。
それなのに―\r
何で、こんな事になってしまったのだろう。
何時もの様に仕事から帰って来た僕は、リビングの上の、僕宛ての郵便物を確認した。
なんと僕は、書類選考を通ってしまったんだ。
思わず自分の目を疑った。
印刷ミス、若しくは他者との間違いではないのかとも思ったし、
夢を見ているのかとも思った。
しかし、これは夢ではない。
僕は、後日行われる二次審査の会場の場所を同封されていた書類で確認し、
喜びとも、不安ともつかない何か途轍もない事を仕出かすのではないかという複雑な思いでいっぱいになり、
それでも―\r
この所、毎日の様に会社で部長に怒鳴られっ放しな事に対してのストレスで、不眠気味だったけれど、
この夜は珍しく熟睡出来た事についてだけは、素直にラッキーだったと言えるかもしれない。